Saved Ravonal!!運動の一部始終を記録したCD-ROMが完成しました.
枚数に制限がありますが希望者には無償でお送りします.詳細は以下のサイトをご覧下さい.

http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/anes/www/youkou.htm


我々麻酔科医が日常の臨床で多用しているラボナールが製造中止になるということをある日突然知らされました.そして約3ヶ月後,今度は製造中止撤回の報が入ってきました.多くの麻酔科医はこの間の経緯を知らされていません.そこで局面毎に主に報道された記事から事実関係の再構築を試みます.

(1)製薬会社による医療機関への通告

本年8月5日,インターネット上の麻酔ディスカッションリストにラボナール製造中止の第一報がもたらされました.製薬会社の広報に基づくものでした.製造中止の理由について製造元の田辺製薬は,「会社として改正GMP(医薬品の製造および品質管理に関する基準)に対応するための新たな設備投資は難しいと判断し,製造中止を決めた」[日経メディカル 10月号]と説明しています.即ち老朽化した製産ラインの更新のため,約10億円の設備投資が必要[SPA 10/15号]なのに対して,500mg/352円という安い薬価では採算が取れないという経済的な問題です.同じ内容の情報が製薬会社から直接もたらされたのは数日後でした.
同効薬のチトゾール(杏林薬品)やイソゾール(吉富製薬)などへの切替も考慮されましたが,ラボナールの市場占有率が50%を超える[朝日新聞 9/29朝刊]ため,ラボナール不足分を補える状況ではありませんでした.また,杏林薬品も吉富製薬も製造中止を検討中であるという情報がインターネットを通じてもたらされ,我々は危機感を募らせてゆきました.
麻酔導入に関してはプロポフォールが普及しつつありました.しかし薬価が200mg/1970円と高く,ラボナール使用分を全て切り換えれば膨大な医療費上昇が新たに見込まれることが確実でした.またプロポフォールは妊婦への使用が禁忌とされており,産科領域での代替は困難と思われました.
このように,インターネット上の議論の過程で,ラボナール製造中止が患者・医師の双方にとって安全性でも経済性でも不利益をもたらすことが指摘されました.製薬会社や厚生省の姿勢を問う声だけでなく,薬価制度への疑問も聞かれました.

(2)報道機関の反応

インターネットでの議論白熱に呼応するように,ラボナール製造中止の記事をマスコミが報道し始めました.先鞭を付けたのは9月29日の朝日新聞朝刊です.記事の内容はラボナール製造中止に関する限り既に我々が知っているものでした.しかし「日本麻酔学会は近くメーカーや厚生省に対応を求める要望書を出すことにしている」[同紙]ことは知りませんでした.この時点で我々はマスコミを通じて初めて日本麻酔学会の動きを知ることになります.

(3)日本麻酔学会が厚生省に要望書提出

10月15日の朝日新聞東京版の33面に,日本麻酔学会が厚生省に対してラボナール製造中止撤回を求める要望書を提出した旨の記事が掲載されました.麻酔科医の加盟する関係諸団体が,厚生省や製薬会社に対してラボナール製造中止撤回を申し入れるべきであるとする意見は,これ以前にもインターネット上で聞かれていました.

(4)製薬会社が製造中止撤回を表明

10月29日,突如田辺製薬がラボナール製造中止撤回を発表しました[朝日新聞,日経新聞 10/30朝刊].理由は「医療機関からの要請が強く、医療上不可欠な医薬品と認識した」[朝日新聞 10/30朝刊]ことと報じられています.田辺製薬の営業担当者から経緯の説明を受けた複数の医師によれば,日本麻酔学会の要望を受けた厚生省が,同社に製造中止撤回を要請したということです.
さて,一連の経緯の中から事実と思われるものを時間の経過に沿って改めて抽出してみます.

製薬会社がラボナール製造中止を医療機関に通告した
インターネットで議論が沸騰した
マスコミがラボナール製造中止を報道した
日本麻酔学会が厚生省に製造中止撤回を要望した
厚生省が製薬会社に製造中止撤回を要請した
製薬会社が製造中止撤回を表明した

これらの事実には相互に連関があるはずですが,詳細は今だに明らかではありません.一連の経緯を検証することで,第二,第三のラボナールの出現を未然に防ぐことができると考えます.インターネット上で繰り広げられた議論が,その検証の一助となれば幸いです.